菓葉暦

冬至

とうじ
12/22〜1/5頃
冬至

和菓子をどうぞ

菓銘 『一陽 -いちよう-』
薯蕷饅頭 | 小豆こし餡・南瓜

一年でもっとも日が短く、長い夜が訪れる頃。日の出は1月半ばにかけてさらに遅くなりますが、日の長さは底を打ってすこしずつ回復していきます。上空ではシベリア寒気団が南下して冬将軍が本領発揮、「クリスマス寒波」や「年越し寒波」をもたらします。いよいよ極寒のシーズンがはじまります。

「陰極まれば陽に転ず」。東洋の陰陽思想では陰気が極まった次の瞬間、かすかに太陽の力が回復しはじめる冬至を「一陽来復いちようらいふく」という言葉で表します。

古代、一年のはじまりは冬至でした。エネルギーが乏しい時代、しんしんと冷え込む長い夜が明ける瞬間や太陽のちからがわずかでも回復してくる兆しはどれだけ待ち遠しく、めでたく感じられたことでしょう。「一陽来復」が長く困難が続いた後わずかに希望の光が見えてくることの例えや不運もずっとは続かないという意味で語られるのも納得です。

江戸時代、冬至に「ん」が二度つくものを食べると運が上向くと言われるようになりました。「冬至の七種 ななくさ」といって、なんきん・れんこん・にんじん・ぎんなん・きんかん・かんてん・うんどん(うどん)が上げられています。

中でも南瓜は今でも「冬至に食べると風邪を引かない」と親しまれ、冬場に不足しやすいビタミン類やβ-カロテンを補給して免疫機能を高める優れもの。「冬至南瓜に年取らせるな」という言葉もあり、夏の収穫から長期保存できるものの年を越すと傷みやすくなるためこの頃までに食べきるのが良いとも言われています。

今回は南瓜と小豆のいとこ煮になぞらえた薯蕷饅頭をおつくりしました。熱々のお饅頭を手で割っていただくと夜の闇を破る光が差し込む情景が思い浮かぶでしょうか。

冬至イラスト

季節のからだ

日光浴と旬のおいしいもので骨を丈夫に

冬に負担がかかりやすい部分のひとつが「骨」で、骨折は冬に増加します。寒さや活動不足で筋肉が硬くなり厚着で動きが制限される上、靴下や路面の凍結で滑りやすくなるなど、つまづきや転倒が起こりやすい条件が揃うことが直接的な原因です。

冬の寒さも骨に影響を及ぼします。からだの代謝は温度によって左右され、本来は寒いと反応が遅くなりますが、いくつもある調節機能のおかげで周期的なリズムが保たれています。その一つが、細胞が血中から取りこむカルシウムイオンのはたらきで、寒冷環境下ではその需要量が増えます。

カルシウムは骨格を保つだけでなく、代謝や神経伝達、筋肉の収縮などに使われている生命維持に不可欠な物質です。骨はその貯蔵庫で、骨から血中に溶け出しては再び沈着して骨になるというサイクルを繰り返していますが、寒冷でカルシウムの需要が増える冬は新陳代謝が鈍ります。

丈夫な骨を保つにはカルシウムの摂取はもちろん、吸収を高め、再形成を促すことが必要です。これを助けてくれるのが日光浴と冬の味覚です。

ビタミンDはカルシウムの調達役で、腸管での吸収率を高めます。日光の紫外線を浴びると皮膚でも生成されますが、冬は日照時間や紫外線量、肌の露出も総じて少なく不足しがちに。食材ではさんまや鮭、ぶり、マグロ、あん肝など秋から冬にかけて旬を迎える魚に多く、天日干しのしいたけやキクラゲ、卵黄にも豊富に含まれています。

カルシウムの沈着を助け、骨の再生を促すのはビタミンK。納豆に多く、1パックで一日の摂取量を満たす上、腸内でも納豆菌がビタミンKを生成します。納豆の消費量が多い地域では大腿骨頸部の骨折が少ないという調査結果もあります。他には冬の緑黄色野菜、小松菜やほうれん草、春菊、ブロッコリー、海藻類などに多く、カルシウムも一緒に摂取できるものが多いのが特徴です。旬をおいしく楽しむことが季節のからだを支えるのですね。

注)各栄養素について、服用中の薬や持病によって摂取量が制限されている方はかかりつけ医の指導に従ってください。サプリメントでの摂りすぎにもご注意ください。

加齢による骨折は40代後半から増加しますが、特に女性は更年期以降、骨の再生を促していたエストロゲンの恩恵が受けられなくなるため骨量が急減してリスクが高まります。回復するまでに筋力の低下は避けられず、年齢を重ねてからはそのまま寝たきりや要介護状態に陥る主な原因の一つになっています。

晴れた日には防寒を十分にして日光浴をかねてお散歩を。しっかり歩くことでからだのしなやかさが保たれ、かかとへの刺激は骨の再生を助けます。気分も明るくなりますよ。

  • 温かくして骨への負担を軽くする
  • 旬をおいしく食べて骨を丈夫に
  • 日光浴ついでにお散歩へ

五感をひろげる一句

孤独とはひかりをおびる冬銀河

孤立とは違い、孤独な時は、人を内省に向かわせる。好きな音楽を聞き、好きな本を読み、物思いにふけり、その人を静かに磨く。孤独な時間にしみじみと自分を取り戻し、新たに肉付けした心を持った人達がゆるやかな連帯で繋がっている。燦々とかがやく冬星のように。(季語:冬銀河)

作:志田円/「自鳴鐘」同人