大寒
だいかん菓銘 『下萌え -したもえ-』
薯蕷練切製 | 黄味餡
天も地も凍えて寒さ極まる頃。冬至から早1か月を過ぎ徐々に日足が長くなってくるのを感じますが、夜の時間はまだ十分に長く地球から宇宙空間への放熱が衰えないため一段と冷え込みが増します。山中の湖や北の海には氷が張り、ワカサギ釣りや流氷のシーズンを迎えます。
雪や枯れ草の下では若菜や山菜がそろりと芽吹く気配がしてくる頃。古来日本には年の初めの「子の日」に若菜を摘む風習がありました。陰暦でのお正月ですから、新暦では2月中、早くても1月末以降にあたり、極寒がわずかにゆるみはじめる頃に当たります。本格的な芽生えの季節に先駆けていち早くあらわれた生命力をいただいて一年の無病息災を願ったのです。
正月十五日には米・粟・黍・稗・蓑米・胡麻・小豆の7種で炊いた粥「七種粥ななくさがゆ」を食べる風習もありました。奈良時代には中国から陰暦一月七日「人日の節句」に七種の菜羹(野菜の汁物)を食べる風習が伝わり、これらが結びつくことに。江戸時代には春の七草でつくる七草粥として親しまれるようになった他、元の七種粥は簡略化されて小正月の小豆粥になっています。
和菓子では若菜饅頭や若菜餅にその名残が見えるほか、「下萌え」や「雪間の草」などの菓銘にも春の萌しに目を留めてよろこぶ心が伺えます。
極寒は春の目覚まし。梅や桜はつぼみをふくらませてほころぶときを待っています。絵葉書には春一番に出てくる山菜、ふきのとうが雪の中から出てくる姿を描きました。2,3月の旬に先駆けていち早く頭を覗かせたひとつでしょうか。
貯筋習慣でいのちのびやかに
いつまでも健やかなからだとしっかりした頭で自分らしい暮らしを続けられますように。多くの人の願いを下支えするのは活動量が減る冬に衰えやすい筋肉です。
ものを食べたり話したり、気持ちを伝える表情をつくったりするお口まわりの筋肉を私たちはふだん無意識のうちに動かしています。日常生活のあらゆる動作も同じで全身の筋肉が支えているため、自分らしい人生を送るにはしなやかな筋肉を十分に保つことが不可欠です。また、認知機能も筋肉量や筋力との相関が指摘されています。
筋肉の量・質ともに低下しはじめるのは40〜50歳頃、つくる量よりも使う量が上回っていくことで起こります。筋肉強化にはたらくホルモンの分泌が減るほか、たんぱく質から筋肉をつくる能率が落ちて若い頃と同じ摂取量では筋肉量を維持しにくくなるためです。一方、筋肉を消耗する要因は活動量の低下やエネルギー源になる糖質の極端な制限、体内での炎症などが挙げられます。特に炎症の影響は大きく、日頃の感染症予防や生活習慣病のリスクを減らす心掛け、がんなどの消耗性疾患の早期発見・治療が大切です。
筋肉はエネルギーを蓄え、不測の事態からの回復を担うもの。たとえ思わぬ病気やケガに見舞われても早く日常生活を取り戻せるように、少しずつ筋肉を増やす習慣を身につけることをおすすめします。いくつになっても自分の状態に合わせて徐々に鍛えればからだは応えてくれます。
ポイントは運動と栄養摂取はセットですること。運動することで筋肉が鍛えられるだけでなく、摂取したたんぱく質を筋肉に変えやすくなります。
たんぱく質は、動物性のものに多く含まれる必須アミノ酸の一つロイシンが特に重要なため、肉魚や卵、乳製品、大豆食品の摂取量を年齢とともに意識的に増やす必要があります。朝昼晩で量がばらつくと筋肉をつくる効果が減ってしまうため、三食にまんべんなく分けて摂ることが勧められています。また、冬至でご紹介した冬に不足しやすいビタミンDも筋力の維持に欠かせないことがわかってきています。
運動は坂道や階段、早歩きを織り交ぜたウォーキングの他、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動が効果的です。自分の体重を使ってできるプログラムが多いので、寒い時期でも暖かい室内で体力に合わせて取り入れることができます。
春先、寒さが緩みはじめてからだの緊張もふと解けると筋力のアンバランスさから腰痛などが起こりやすくなります。からだもこころも動き出す春を迎えるウォーミングアップとして室内での軽い筋トレから始めてみませんか。食事もいっそう美味しく、炎症を招くストレスの発散にもなりますよ。
- しなやかな筋肉で自分らしい暮らしを支える
- 軽い筋トレと効果的な栄養補給で春を待つ
- 加齢変化をカバーする食習慣へシフト
芽のような幼の拳春隣
暗く寒い冬も終わり近くなり、梅や椿が蕾に紅を見せ始め、草も萌え出し、日差しも一日一日濃くなってくる。幼児(おさなご)の拳は萌え出ずる芽のようだ。その拳も春になれば指をいっぱいに広げ、新しい季節の力をつかみ取るだろう。(季語:春隣)
作:志田円/「自鳴鐘」同人