菓葉暦

小寒

しょうかん
1/6〜19頃
小寒

和菓子をどうぞ

菓銘 『花びら餅 -はなびらもち-』
ういろう製 | 白味噌餡・牛蒡の蜜煮

寒の入りを迎え、冷え込みが厳しくなる頃。日の出は小寒のあいだがもっとも遅く、西日本では朝7時を回ります。日が昇る前に出掛ける方も多く、身が縮こまる毎日です。

年々お正月気分を早々と切り上げる風潮になりつつありますが、新たな年のはじまりをゆったりと味わいたいなら和菓子屋さんを覗いてみるのがおすすめです。1月中はおめでたい意匠のお菓子が並びますが、中でも茶道裏千家の初釜でおなじみの「花びら餅(葩餅)」はその姿、味わい、由来ともに特別です。

元になったのは「菱葩ひしはなびら」というお餅で、宮中の正月行事でお節料理やお供え、下賜品の一つとして使われてきました。その由来は平安時代からの祝い行事「歯固め」の儀式に遡ります。歯が齢に通じることから猪、鹿、大根、瓜、押鮎(塩漬けの鮎)など歯ごたえのある固いものを食べて長寿を願っていました。儀式化される中で菱形と葩形(円形)の餅を重ねた菱葩に、さらに江戸時代には丸餅に菱餅と押鮎の見立てである牛蒡、味噌をはさむ形になり「包み雑煮」とも呼ばれました。

お菓子になったのは明治時代。裏千家十一代 玄々斎が初釜に使うことを許され、長年宮中に菱葩を収めていた店の一つ、川端道喜に作らせたのをきっかけに全国に広まりました。意外性のある白味噌餡や牛蒡の蜜煮もお餅の甘みと相性がよく、茶道にかかわらずとも年に一度の楽しみにされている方も多いでしょう。汐音屋ではういろうに寄せた歯切れの良い生地でつくりますが、求肥や羽二重餅でつくられるお店も多く、食感や餡の味などお好みを探すのも楽しいお菓子です。

陰陽思想では丸や白は陽や天、四角や紅は陰や地を表します。白の丸餅と紅の菱餅を重ねることで陰陽の調和、天地の間で交わされる様々な変化によっていのちが繋がれ、永続的に発展することを願っていると考えられます。同様の意味を持つのが千代結びで、今回の絵葉書にはかわいらしい千代結びの飴をちりばめています。

小寒イラスト

季節のからだ

健康長寿を支えるオーラルケア

「歯固め」は単なる儀式にあらず。しっかり噛める、なんでも食べられる歯の健康を保つことはすこやか長寿を叶える秘訣であることが近年さまざまな研究から明らかになってきました。

さまざまな全身疾患との関連が明らかになっている歯周病は歯周病細菌による感染症です。歯垢は細菌の塊で、磨ききれずに歯と歯茎の間に溜まると炎症を起こし、歯の周りの歯ぐきや歯を支える骨などが溶けてしまいます。出血しやすく、傷んだところから炎症による強力な毒素が入ると血液を介して全身に影響が及びます。

歯周病細菌の刺激で血管内にプラークが生じて動脈硬化が進むと心疾患や脳梗塞に、炎症による毒素やそれに対抗する免疫機能の反応でインスリンのはたらきが阻害されると糖尿病の悪化に、誤嚥で細菌が気管支に入るといのちをも脅かす肺炎に、妊婦の場合は低体重児や早産のリスクに、さらにアルツハイマー型認知症との関連も指摘されています。

歯の本数をどれくらい保てるかも重要なポイントです。国と日本歯科医師会が30年以上にわたって勧めてきたのが「8020運動」、80歳で20本以上の歯を保つことを目指しています。生涯食べる楽しみを味わおうというのが当初の目標でしたが、健康寿命への効果も明らかになっています。

65歳以上でしっかり噛める歯が義歯も含めて20本以上ある人と19本以下の人を比較した研究では、認知症の発症は最大1.9倍、転倒のしやすさは最大2.5倍にもなるとの調査結果があります。また、4年間の追跡調査で一人では日常生活を行えないと要介護認定に至った人は19本以下の人で1.2倍に、ほとんど噛めない人では1.5倍も多くなっています。

歯を失うリスクは歯周病や虫歯だけでなく骨粗しょう症によっても高まります。あごの骨は歯を支えている土台ですが、骨密度が低下すると歯がぐらつき抜けやすくなります。固いものを避けるようになって咀嚼による骨への刺激が少なくなるとますます脆くなるという悪循環に陥ってしまいます。

また、加齢にともなう心身の虚弱化、フレイルの入口として「オーラルフレイル」も注目されています。食べものを噛んで飲み込む、声を出すなどの動作はお口まわりのさまざまな筋肉や神経が複雑に連携して動いています。食べこぼす、むせる、堅いものが食べにくい、滑舌が悪い、唾液が少なく口の中が乾燥するなどの症状はごく初期のサイン。早めに口腔体操やマッサージを取り入れると効を奏します。

歯科は健康診断の基本項目にはなく不具合の発見もメンテナンスも自発的な検診次第です。自分でできるケアには限界がありますが、忙しい世代では通院が負担でつい後回しにしてしまい、大いに後悔することも。治療方法や進め方も変わってきているので、自分に合うクリニックを見つけて定期的に通えると安心です。

  • 健康な歯は一生の宝
  • 定期検診でメンテナンス&早期発見
  • フレイルサインに気づいたらトレーニングを

五感をひろげる一句

心音を共に刻みぬ寒雀

疫病(えやみ)の世で生きていると、人事のことばかりに捕らわれる。しかし、私たちはあらゆるものと共に動物である。空や山の一部であり、小さな雀とも同じく心音を刻む。己は自然の一部だと思いこの世を見つめる。一つ深い呼吸がからだをめぐる。(季語:寒雀)

作:志田円/「自鳴鐘」同人