菓葉暦

大雪

たいせつ
12/7〜21頃
大雪

和菓子をどうぞ

菓銘 『姫椿 -ひめつばき-』
ういろう製 | 柚子餡

町にも雪がちらつきはじめる頃。木々がこざっぱりと骨格を表し、色あせた紅葉や銀杏は足元に積もって、視界から色が失われていきます。

色はひかりやいのちがあるしるし。とりわけ赤は生命力を表す色です。生まれたてのこどもは赤みがかった肌から「赤子」と呼ばれ、大人は紅を差して血色を補い、還暦には赤いものを身につけて厄を祓います。お祝い事や季節の節目に赤飯やおぜんざい、小豆粥やぼた餅など小豆を炊いて食すのも小豆の「赤」という色に加勢を願うもの。いのちの火が絶えず長らえるように、時折薪をくべるようなものといえるかもしません。

師走に入り日に日に陰っていく中で、紅色の花びらをゆるりとくつろげて次々と咲く山茶花が心にあかりを灯します。

晩秋から冬にかけて咲く山茶花と冬から春にかけて咲く椿、姿はよく似ていますが、山茶花は花も葉も比較的小ぶりで「姫椿」とも呼ばれます。散るときは花びら一枚ずつひらりはらりと落とし、舞いはじめた純白の雪とともに年の暮れを描きます。咲いた姿のまま降りる椿はこんもり積もった雪や牡丹雪が引き立て役に。それぞれの美しさに寒さも忘れて見惚れます。染料や塗料が少なかった時代はどれだけ鮮やかに見えたことでしょう。

お菓子は鮮やかなピンクに染めたういろうで柚子餡を包んでいます。ピンクの色も柚子の香りも心をゆるめてくれるもの。寒さで縮こまったからだとこころをひとときくつろげるお菓子です。温かいお茶と一緒にどうぞごゆるりと。

大雪イラスト

季節のからだ

人生の冬、更年期の過ごし方

還暦60歳を迎えると再び赤子に戻ると言われますが、これを四季にたとえると0〜14歳は春、15〜29歳は夏、30〜44歳は秋、45〜59歳は冬、そして60歳で二度目の春を迎えることになります。

立春の誕生から初夏の小満にあたる10代後半までは一人前になる準備期間、青さが残る時期です。からだとこころを自分で適切に扱えるように、大人に心身の安全を守られ養われながら試行錯誤をくりかえします。

子を産み育てる適齢期20〜30代は稲を植える芒種から収穫を迎える秋分の頃、太陽にめぐまれる季節と同じく肉体・気力ともに充実して活動的になります。自分以外の存在に分け与えるためのエネルギーも十分に預かっていて、子育てや社会の一員としての役割に大きな力を発揮できるとき。

45歳以降の冬は男女ともに更年期に重なります。新たないのちを生み出す役目から卒業していく過程で扱えるエネルギー量は自分一人分へと縮小していくため、からだの変調やこころの落ち込み、パワー不足を感じやすくなります。大雪は50歳頃、女性が閉経を迎える平均年齢であり、男性も症状に悩む方が多くなります。

女性は閉経の前後5年の更年期を抜けると新しいからだに慣れて、還暦を迎える頃にはまさに再び春が来たように元気になる方も多くいらっしゃいます。生まれつき与えられていた役割からはじめて解放されるので大きな変化や戸惑いも伴いますが、10年にわたる更年期はいわば自分サイズのからだやこころへのリノベーション期。多すぎる荷物を手放し、これからの自分にとっての心地よさをじっくり模索するときです。

更年期の症状は性ホルモン分泌の低下をきっかけとして起こります。性ホルモンと自律神経のコントロールセンターはともに脳の視床下部にあるため、ホルモンの変調と自律神経は相互に影響を受けます。更年期の症状が日によって様々に表れるのは自律神経が生命維持にはたらくさまざまな機能に関わっているためです。

年齢的には家族や社会での責任が重くなる頃。視床下部はストレスの影響も受けやすいため、ストレスをたくさん抱えると症状が重く、長くなる傾向があります。ホルモンの低下が女性ほど急激ではない男性も注意が必要です。

大きな変化にさらされる更年期はアンバランスな要素が多いほど負担がかかります。無理を我慢するより少しゆるめて、安定した生活リズムやゆとりをもたせたスケジュール、ストレスを逃がす工夫を。冬の寒さもからだにとってはストレス。交感神経を刺激して心身の緊張が高まるため、からだは眠気や食欲を増しリラックスを求めてバランスを取ろうとします。「早めの休息」と「心地良い」はからだとこころのお守りです。

  • 更年期は人生のリノベーション期
  • 暮らしのアンバランスを減らす工夫を
  • 成熟世代は心地よさがお守り

五感をひろげる一句

地に降りる山茶花の赤きしめて

山茶花はツバキ科の常緑小高木。花は椿に似ているが、椿よりも小ぶりで花弁がうすく、一片ずつ散りやすい。初冬の寂しい道脇に山茶花の紅色がつもり、鈍色の空を映した私の心の中にはその赤が薫きしめられていく。(季語:山茶花)

作:志田円/「自鳴鐘」同人