白露
はくろ菓銘 『秋の風 -あきのかぜ-』
ういろう製|白小豆粒餡
残暑の厳しさは年によって異なるものの、大気がはらんだ熱が和らいでいくのが感じられる頃。早朝の草花には白露しらつゆが宿り、収穫期を待つ稲穂がいよいよ頭を垂れてゆきます。
この頃になると西方の大陸よりカラッと心地よい風が吹くようになります。日本の夏が蒸し暑いのは風土を潤すゆたかな水を熱せられた大気がたっぷり抱き込んでいるため。水蒸気として大気の一部になっていた水分は大気が冷めていくにつれて姿を現す、そう、白露として結ばれるのです。
白露は言い換えれば気温が落ち着き、空気が乾燥してくる頃ということ。白露から秋分にかけて迎える十五夜の名月は輪郭くっきり、煌煌と輝いて見えますが、これもまさしく大気中の水分量の少なさ故。春の水分たっぷりの大気に浮かぶ朧月おぼろづきとはまた異なる美しさです。
そんな乾燥の時期に弱りやすいのはのどや鼻などの呼吸器系。のどのイガイガや痰が気になるとき、頼りになるのが秋の七草のひとつ、キキョウです。漢方薬だけでなく市販ののど飴にも使われているポピュラーな生薬なので知らず知らずお世話になっているかもしれません。キキョウに含まれるサポニンには咳を止め、痰を除く他、のどの痛みや声がれを和らげる作用もあるとされています。
絵葉書では桔梗の花を五弁のかざぐるまに見立てて描いていただきました。秋の風にカラカラと小気味よく回る姿が思い浮かぶでしょうか。
潤いを補ってバリア機能を高める
中医学では秋のからだを守る主役は「肺」と考えます。これは鼻やのどといった呼吸器系だけではなく、皮膚や大腸もその仲間とされています。
一見まったく関係がないようですが、共通点は「からだの外界と内側を隔てている部位で外部の異物にも直接触れる」という共通点があります。(大腸含む消化管も、口から肛門まで筒状の内側の壁は外部から取りこんだ食べものや消化物に直接触れていると考えます。)
そのためからだのバリア、免疫のはたらきが活発な部分でもあります。呼吸器系の場合、空気が肺にたどり着くまでに鼻やのど、気管などを通ってその粘膜で異物をキャッチして排除しています。皮膚には常在菌や免疫細胞がくまなく存在して常に外界に対して目を光らせていますし、大腸に存在する乳酸菌は腸内環境を酸性に保ち病原菌の増殖を抑えています。
この3つは弱点も共通で「乾燥が大敵」。呼吸器系の粘膜や皮膚は潤いが足りないとバリアが手薄になって病原菌やウイルスが侵入しやすくなりますし、大腸も適度な潤いがないと不要物の排泄がスムースにいきません。
この白露は秋冬の乾燥シーズンのはじまり。夏に汗として失った潤いを十分に補っておかなければバリアを担う「肺」グループにトラブルが起きやすくなる、そんな待ったなしの時期なのです。一方でまだ暑さが残っていて汗をかきやすいというのが難しいところです。
そこで薬膳の知恵を拝借。
ひとつは汗腺を引き締めて潤いを逃がさず補う「酸味と甘味」の組み合わせ。果物に多く、旬の果物なら梨やぶどう、スダチなどの柑橘、冬にはリンゴも重宝します。ヨーグルトやチーズも酸甘味と考えられています。
ふたつめは保水力を高めるネバネバ系の食べもの。山芋やオクラ、なめこなど水を抱き込みながらからだのはたらきを調えてくれます。もち米もうるち米よりも力が強く、汗腺の開閉のコントロールや体表のバリアを強化すると言われています。ただし、からだが弱っているときは力が強い食材はからだの方が負けてしまうので、元気なときに限って召し上がることをおすすめします。
糖質同様、いずれも摂りすぎはNG。余分な水分や老廃物の排泄を邪魔しやすくなる難点もあるので偏らないようにご注意を。むくみや痰が気になるとき、おなかの調子がすぐれないとき、雨天曇天で体調を崩しやすい方は控えめにしてくださいね。
- 潤いを補ってバリア強化
- 酸味&甘味とネバネバで保水力UP
- 溜め込み傾向の方は控えめに
花鋏ふわりふわりと千草降る
千草、色草、秋の草はよく知られた七草をはじめ名もないとされる草まで、秋に花をつける草のことを広くさす。山野、道の辺、庭などに繁る。秋の趣を探して野にでれば、花鋏がぱちんぱちんと鳴る度に秋の彩りを持つ楚々とした花たちが手のなかに降る。(季語:千草)
作:志田円/「自鳴鐘」同人