秋分
しゅうぶん菓銘 『みのり』
栗きんとん|丹波大納言小豆粒餡入り
昼と夜の長さが等しくなる頃。ここを境に夜間の方が長くなり、朝の肌寒さに秋の訪れを実感する人も多くなります。
いよいよ迎えるみのりの秋本番。洋の東西、老若男女を問わずその名を聞けば色めき立つ秋の味覚といえば「栗」。それもそのはず、縄文時代にはすでに栽培種があったそうで、当時は冬を迎える前に実るおいしくて貴重な栄養源だったのでしょう。
江戸中期大飢饉にみまわれた年には銀札が舞い込むほど高値で売り買いされたそうで、今でも「銀寄」という品種名にその逸話を残しています。
薬膳では長寿につながる食材のひとつ。消化吸収を助ける他、寒くなると気になる腰膝の弱りやお小水のトラブルを和らげるとされています。冷え込んでいく季節に喜んで味わっておきたい秋の味覚です。
糖度の高い栗は昼夜の寒暖差が大きく、水はけがよい山の斜面で育ちます。9月に入る頃には出回り始めるものの、大ぶりのものを手に入れるなら秋分前後までは待ちたいところ。栗きんとんに、渋皮煮に、甘露煮。この時期和菓子も栗づくしですが、まずはただ蒸し上げてその香りとやさしい甘味を味わうのが至福です。
栗のお菓子の銘で見かける「山つと(山づと)」は山からの土産を意味します。冬を前に山を下りて里に戻った人の土産でしょうか。届ける人、待ちわびる人のほころぶ笑顔も思い浮かびます。
保温からはじめる秋冬の冷え対策
「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものでこの秋分を境に気温が落ち着いていきますが、それは長くなる夜の時間と関係しています。
日中気温が上がるのは太陽の熱で地表が温められているため。一方夜間は、日照がないだけでなく、地球から宇宙空間へと熱が放出されているため気温が下がります。実際には地球は一日中放熱していますが、昼間は蓄熱と放熱が同時に起こっているのに対し夜は放熱するだけなので、夜の時間が長いほど気温が下がります。夜明け前に一番気温が低くなるのもこのためです。
今はまだ夏に受け取った熱の蓄えがあるので温かいですが、ここから夜が長い日々が続くうちにその熱も徐々に失われていきます。これは私たちのからだも同じこと。常温の水も冷蔵庫に入れると冷たくなるように、まわりの温度が低くなるとからだは冷えやすくなります。
からだは冷えると十分に機能しないのでエネルギーを使って体温を保ちますが、そのエネルギーは体力気力と同源。冬の疲れやすさや思考力の低下はからだを温める方にたくさんのエネルギーを割くことでも起こります。エネルギー不足になればからだは冷えてはたらきが低下し、新しく生み出すエネルギーも少なくなり、とますます悪循環に陥ります。
秋冬の元気の秘訣は「保温」。夏に蓄えた熱を温存して体温維持に使うエネルギーは最小限に抑え、節約したエネルギーで秋冬を元気に過ごす。そのためには本格的に寒くなってくる前の今から対策を始めることです。
といってもまだ日中はそれなりに気温が上がる頃。対策は「足元から」「日が暮れる少し前に」はじめます。
上半身で暑さを感じている分、足元が冷えていることに気づきにくい時期です。足首まわりは温かく保ちたい内臓につながるツボが集まっているのでまずはここから保温を。長めの靴下や足首だけのウォーマーがおすすめです。日が暮れると急に肌寒くなってくるのもこの時期の落とし穴。薄手のものを持ち歩いて日が傾いてきたら早めに身につけると良いですよ。
- この時期からの「保温」で秋冬も元気に
- 足元からはじまる冷えに長めの靴下や足首ウォーマー
- 夕方以降は早めに一枚プラス
秋の燈や肺腑に深き息落ちる
秋の夜の灯りは春の灯りのはなやかさと違って、静かな思索を誘ってくる。灯りの煌めきに心が静かな一息をつく。(季語:秋の燈)
作:志田円/「自鳴鐘」同人