菓葉暦

立夏

りっか
5/5〜5/20頃
立夏

和菓子をどうぞ

菓銘『菖蒲 -あやめ- 』
薯蕷練切製|小豆こし餡

晩春ののどけさの中に夏の気が立ちはじめる頃。うららかな季節への名残惜しさも瑞々しい青葉の中に藍色の菖蒲アヤメが立ちあらわれるとさわやかな初夏への期待にかわります。

五月五日「端午の節句」の別名は「菖蒲ショウブの節句」。新暦の頃はアヤメが、旧暦の頃はハナショウブが見頃。漢字が同じで、節句のお祝いにも一緒に飾られることが多いですが、本来ショウブはまったく別の植物です。

ショウブは「尚武」につながる、葉の形が刀に似ると縁起を担ぎ、男の子の成長を祝う行事になったのは実は江戸時代から。もとは古代中国で旧暦五月の初め(=端)の「午ご/うま」の日に野山でショウブやヨモギを摘んで邪気を祓っていた風習に由来します。

旧暦五月五日は現代のこよみでは6月上旬〜下旬、梅雨時のじめじめした時期にあたります。古来、ショウブ(中国では石菖セキショウのこと)が重用されたのは夏の蒸し暑さで生じやすい不調を和らげる薬効によるものでしょう。

湿度が高くなると起こりやすい症状にむくみや消化不良、頭痛や関節痛、思考力の低下やメンタルの不調などがあります。セキショウやショウブにはそうした湿気の影響をやわらげる薬効があるとされています。古くは髪に挿したり枕の下に敷いたりしたのはその芳香を嗅いで効果を得るため、薬湯として好まれたのも汗とともに不調をさっぱりと流しやすくなるためと考えられます。

今ではすっかり本来の意味は薄れてしまいましたが、これからの季節にぴったりな本物のショウブ湯、機会があったら入ってみたいものですね。

立夏イラスト 立夏イラスト

季節のからだ

夏のからだを守る「汗」と「皮膚の血行」

季節に応じて変化する私たちのからだ。夏の暑さに適応するための変化は立夏の頃、わずかに汗ばむ肌や上気する頬をさわやかな風がなでていく今頃からはじまっています。

季節とからだの関係をこまやかに解き明かす中医学では夏のからだを守る主役を「心しん」と言います。心臓のはたらきだけではなく、全身の血液循環や血液からつくられる汗も含みます。

気温が高くなると体温も上がりやすくなりますが、からだが良い状態ではたらく体温の範囲はごく狭いもの。そのあいだに保つための調節機能のうち、とりわけ夏に活躍するのが「心」のグループに属する「汗」と「皮膚の血行」です。

暑いと自然と出てくる汗は、その水分が蒸発するときに皮膚から熱が奪われることで体温が下がります。血液は全身をめぐってからだの熱を運ぶもの。皮膚を通して体温よりも涼しい外気にふれることで冷却されるため、体温調節の一部を担っています。皮膚の毛細血管は気温や体温が高くなると太くなって血流量が増え、熱を冷ます効果が高まります。暑いと顔が赤くなるのもそのためです。

この二つのはたらきを上手に活かすポイントは「蒸発を妨げない」ことと「風通しの良さ」。

暑い日の装いはからだを締め付けず風通しのよいものに。汗が蒸発しやすく熱がこもりにくくなります。また、汗のかきっぱなしは汗が皮膚をラップのように覆って蒸発しにくくなるため放置はNG。固く絞った濡れタオルや汗拭きシートで拭いたり着替えたりするのがおすすめです。汗を流したお風呂上がりもさらりとした通気性の良いインナーを身につけて。

もうひとつ、「水分補給」も血行と汗のはたらきをサポートします。血液の大半は水分で、汗もその一部である血漿からできています。水分補給が少ないと血流量が不足し、汗も十分につくれません。

水分補給というと飲み物でと思いがちですが、食事をおいしく味わうことも欠かせません。食べ物に含まれるさまざまな栄養素があってこそ、からだや血管をめぐる水分をつくれるようになります。これからが旬の水分の多い夏野菜や果物、血液の水分量を保つもとになるたんぱく質は夏のからだを快適にしてくれますよ。

  • 暑い日はからだを締めつけない軽やかな服装で
  • 汗をかいたらタオルや汗拭きシートでふく、着替える
  • おいしく食べて効率よく水分補給

五感をひろげる一句

黒眸こくぼうに緑うつして夏はじめ

木々の緑に、その緑をわたる風に、太陽のきらめきに、いかにも夏のはじめのこころよさが夏はじめという言葉にある。もの憂い晩春からさわやかな初夏へ、眸(ひとみ)には緑が眩しく映る。(季語:夏はじめ)

作:志田円/「自鳴鐘」同人