小満
しょうまん菓銘 『青嵐 -あおあらし- 』
薯蕷きんとん製|小倉餡
早春、細い枝枝にまばゆい新芽を灯していた木々はいつのまにか、その骨格を柔らかな若葉ですっかり包んでいます。
ふりそそぐ光、わたる風にゆらめく緑の濃淡はいのちの輝き。時折ざわざわざざざーっと風が荒々しく揺さぶりをかけても、そのざわめきには生きる喜びに沸く山の、そこかしこにみなぎる力強さを感じます。
一年でもっとも昼の時間が長い夏至を一か月後に控えて、ますます陽気が高まっていく頃。江戸時代の書物「暦便覧」では小満は「万物盈満えいまんすれば草木枝葉繁る」、あらゆるものの生気が満ち足りれば自然と栄える、と書かれています。
太陽から惜しみなく与えられる熱や光こそ生気の源、いのちの原動力。その恩恵を余すことなく受け取ろうとあらゆるものが手や足をぐんと伸ばして天地に満ちていくとき。人間のこどもたちもここから伸び盛りの季節を迎えます。
里に目をやれば一面黄金色に波立つ麦畑。「麦秋」を迎え、たわわに実った穂が誇らしげに上を向いています。梅の実もここからぐんとふくらんでかぐわしい香りを放ちはじめる頃。もうひとつの豊かな実りの時期の到来です。
ゆらぎにくいからだをつくるシーズン到来
中医学には「冬病夏治とうびょうかち」という言葉があります。夏の一番暑い時期に陽気の助けを借りて体内の冷えを追い出す治療や養生を施し、冬の症状を改善・予防するというものです。この考え方をアレンジして、夏のあいだにからだを丈夫にしておくと冬を楽に過ごせるようになります。
おすすめしたいのは少しずつ筋肉をつけておくこと。運動で増やせる骨格筋の役割はからだを動かしたり関節を安定させて姿勢を保ったりするだけではありません。熱を生む、血液循環をサポートする、水分や栄養を蓄える、内臓や血管を衝撃から守る、免疫機能を支える、ホルモンをつくるなど多岐にわたります。
夏の脱水や体力消耗の予防も、冬の寒さで悪化する血行不良や痛み、冷えなどの緩和も、骨格筋がカギを握っているともいえます。年齢を重ねるとこうした症状が進みやすいのは筋力の低下とも無関係ではありません。
気温が上がると血行が良くなり、筋肉を動かすために必要な栄養や酸素もからだの隅々まで届きやすくなります。冷えて固まっていた筋肉がほぐれて筋も腱も柔軟に動き、新陳代謝も活発になる頃。からだ全体を底上げしてどの季節でもゆらぎにくいからだをつくるベストシーズン、それが夏なのです。
筋肉がつきにくい体質の方もいますが、からだを動かす習慣やレジャーを楽しむのは無駄ではありません。家事や仕事でからだを使うことを面倒くさがらずにするのもよいと思います。手先足先まで意識を通わせてきびきびと動いてみるのもよいでしょう。そうしてついた筋肉は長く自立した暮らしを支えるベースになります。年齢とともに使わなければあっという間に衰えるので、日々コツコツと貯めていきたいですね。
筋肉をつくる原材料は豆類や大豆加工品、肉や魚、乳製品など良質なたんぱく質。炭水化物や野菜は食べていてもたんぱく質不足で低栄養になる方も多いので、毎食ざっとバランスチェックをするのもおすすめです。少し消化吸収しにくいのでよく噛んで召し上がってください。
- 夏はのびやかに動いてからだを強くできるベストシーズン
- 夏バテも冬のお悩みも筋力UPでラクになる
- 良質なたんぱく質を取り入れて内側からパワーアップ
惑星の重力ぴょんと更衣
冬から春に着用した厚手の衣服を夏物に着替える更衣(ころもがえ)。夏は夏らしく軽くて薄い衣服がいい。地球の重力がひょいと軽くなって体がぴょんと浮き上がるような心地で。(季語:更衣)
作:志田円/「自鳴鐘」同人